入門 「細胞のなかみ」

顕微鏡下で細胞のコロニーをひろう
培養細胞の操作
人体には様々な器官がありますが、一つ一つの細胞内にも消化器官、呼吸器官、分泌器官などがあるのを知っていますか?細胞の一番外側は、細胞膜という閉じた膜によって囲まれていますが、細胞の内部を見てみると、さらに膜で仕切られた構造があります。これらの膜構造が、細胞のいろいろな機能を分担しています。これらは、人体の器官になぞらえて細胞内小器官(オルガネラ)と呼ばれます。真ん中あたりの核には遺伝情報物質が格納されています。おもしろい名前で有名な(?)ミトコンドリアは細胞の呼吸器官です。小胞体、ゴルジ装置、分泌小胞などは、蛋白質を順序よく組み立て、細胞外へ分泌するために働いているオルガネラです。また、エンドソームという膜構造は、細胞が外部からこの中に栄養物などを取りいれ、細胞内の消化器官であるリソソームへと運んで分解・利用します。このためにリソソームには蛋白質や油や糖を分解する消化酵素が詰まっています。

 

消化酵素が消化器官から漏れてしまったら、まわりの大事な分子まで消化してしまってたいへんなことになりますよね。ですから、膜で仕切られた区画の中に特定の分子を閉じこめておくのは細胞機能にとって大変重要なのです。この細胞の膜の基本構造は油の仲間(脂質)の分子によって作られます。動脈硬化の原因となって悪玉扱いされることさえあるコレステロールも脂質ですが、実は細胞の膜が円滑に機能するために重要な膜の構成成分なのです。
さて、細胞が分泌したり、栄養物を取りいれるとき、オルガネラ間を分泌蛋白質や栄養物が移動します。これはちょうど人体に取り入れられた食物が、胃、小腸、大腸と消化器官を移動するうちに消化吸収されるのと似ています。ところが、このときのオルガネラ間の物質の移動は食物が消化管を移動していくのとは違って、宅配便形式です。どのオルガネラに運ばれるのか宛先の印(シグナル)がついた袋に、送るべき荷物を詰めて送るのです。宅配便の袋は、宛先のオルガネラに着くと、そのオルガネラにくっつき、融合して配送が完了します。このような宅配便の行き先選別を休みなく行っている配送センターのようなオルガネラが細胞内に存在しています。細胞内の袋による物流は、細胞内メンブレントラフィック(membrane traffic、膜交通)と呼ばれています。

細胞内には、細胞の骨もあります。細胞が膜でできていて、あとは水っぽいスープ状の物を包んでいるだけとすると、細胞はふわふわと丸い物になるでしょう。しかし実際は、神経細胞のように、細胞本体部分の10万倍もの長さのある長い突起を持った、球体とはかけ離れた様々な形の細胞があります。これは、細胞の内部に細胞の骨があるから可能なのです。細胞骨格と呼ばれる細胞の骨は蛋白質を部品としてできています。細胞骨格の部品は、組み合わさってゼリー状のゲルになり、細胞膜の屋台骨となって細胞のいろいろな形を支えています。この骨格部品は組み合わせを巧みに変えてゲルを変形し、ダイナミックに細胞の形を変化させることができます。 細胞骨格は、また、細胞内に張り巡らされて、細胞内の物質輸送のレールとしても働きます。荷物を詰めた袋が、このレールの上をモーター蛋白質分子の働きで動き回って輸送されています。最近の技術の進展で、生きた細胞内で荷物が仕分けされて運ばれていく様子を、リアルタイムで見ることが可能になってきました。一つの細胞の中は、いろいろな役割を持つ工場が物流システムで結ばれた、一つの街のようにも見えてきますね。

2013年ノーベル生理学・医学賞は細胞内メンブレントラフィック(膜輸送、小胞輸送)研究に

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